賃貸用の空き家443万戸をどう読むか|市場の在庫と実質的な放置

賃貸用の空き家443万戸をどう読むか|市場の在庫と実質的な放置

全国の空き家900万1,600戸のうち、443万5,800戸が賃貸用です。空き家全体の約半分を占めます。

空き家調査では、この層を範囲から外すよう案内しています。募集中の物件であり、仕入れの対象にならないためです。所有者にはすでに貸す意思があり、多くは管理会社も入っています。

ただし、この443万戸をひとまとめに「対象外」と切ってよいかというと、そうでもありません。長期間埋まらない部屋は、実質的に放置型に近づいていきます。統計はこの違いを区別しません。この記事では、賃貸用の空き家をどう読むかを整理します。

この記事の結論

  • 賃貸用の空き家は443万5,800戸。空き家全体の約半分
  • これは市場の在庫であり、放置型とは性質が違う
  • ただし統計は募集期間の長さを区別しない
  • 地域差が大きい。家賃水準が貸す動機を左右する
  • 棟単位で見れば一棟買取・管理受託・修繕の対象になる

賃貸用の空き家とは

住宅・土地統計調査では、空き家を4つに区分しています。

区分 全国の戸数 構成比
賃貸用の住宅 443万5,800戸 49.3%
その他の住宅(放置型) 385万6,000戸 42.8%
二次的住宅 38万3,500戸 4.3%
売却用の住宅 32万6,300戸 3.6%

賃貸用が最も多い区分です。新築・中古を問わず、賃貸のために空き家になっている住宅が該当します。

入居前の新築も含まれる

見落とされやすい点ですが、完成したばかりで入居者がまだ決まっていない新築も、統計上は空き家です

供給が続いている地域では、この層が一定数含まれます。「空き家が増えた」という数字の一部は、新しい賃貸住宅が建った結果ということもあります。

統計は募集期間を区別しない

ここが重要な点です。募集を始めて1か月の部屋も、3年間埋まっていない部屋も、統計上は同じ「賃貸用の空き家」です

前者は正常な市場の動きですが、後者は違います。条件が市場に合っていない、建物が古すぎる、立地が需要から外れている。実質的には、放置型に近い状態です

そして統計では、この2つを見分けられません。443万戸という数字だけでは、市場が機能しているのかどうかも判断できないということです。

地域によって性格が違う

賃貸用の空き家がどれだけあるかは、地域によって大きく変わります。

神戸市の例

賃貸用の割合 放置型の割合
西区 71.9% 20.6%
兵庫区 64.6% 29.0%
垂水区 58.9% 34.1%
長田区 53.1% 43.0%
北区 40.4% 50.8%

西区では空き家の7割が賃貸用ですが、北区では放置型が半分を占めます。同じ市内でも、空き家の中身がまったく違います。

西区で条件を付けずに調査すれば、拾えるものの7割は募集中の賃貸物件になります。仕入れが目的なら、戸建てへの限定が欠かせません。

京都市の例

京都市では、共同住宅の空き家7万400戸のうち73.2%(5万1,500戸)が賃貸用です。一方、一戸建の空き家3万500戸では81.0%が放置型でした。

建て方で性格が正反対になります。共同住宅は市場の在庫、一戸建は放置型。この構造は多くの地域で共通します。

家賃水準が貸す動機を左右する

賃貸に出すかどうかは、採算で決まります。家賃が低ければ、改修してまで貸す動機が働きません

家賃水準 空き家への影響
和歌山県 1畳当たり2,152円で全国44位 貸す動機が働きにくく、放置型に流れやすい
奈良県 1か月5万1,996円で全国9位 賃貸市場が空き家を吸収しやすい

同じ近畿でも、構造が正反対です。家賃が取れる地域では、空き家が賃貸市場に流れます。取れない地域では、そのまま放置されます。

大阪市の家賃は1か月6万1,704円で、前回から5.9%上昇。1畳当たりでは4,134円で10.4%上昇しています。都市部では賃貸として成立しやすいということです。

賃貸用が対象になる場面

「対象外」と一律に決めるのは早計です。目的によっては、賃貸用の空き家こそが対象になります

目的 賃貸用の空き家は対象か 見る単位
戸建ての仕入れ・買取 ならない
一棟買取・建替え なる
賃貸管理の受託 なる
大規模修繕の提案 なる
リフォーム(個人向け) ならない

統計は室単位、提案は棟単位

ここに構造的なずれがあります。統計は空き家を戸(室)単位で数えます。1棟のアパートに空室が3つあれば3戸です。

一方、一棟買取や管理受託の提案相手は建物のオーナーで、話は棟単位で進みます。

統計をどれだけ読み込んでも、棟単位のリストにはなりません。この情報は現地を歩いて記録するしかありません。

空室が多い棟は提案の入口になる

外観から、空室の多さを推測することはできます。

見る場所 分かること
郵便受け 名札のない区画の数、投函物の滞留
窓・ベランダ カーテンの有無、生活の気配
駐車場・駐輪場 使用されている台数
募集看板 掲出の有無、不動産会社名の記載

空室が慢性的に埋まらない棟は、募集の方法や条件に問題がある可能性があります。管理会社にとっては提案の入口になります。

ただし推測であって実数ではありません。正確な入居率はオーナーへの確認が必要です

棟単位のリスト、現地調査でお作りします。

統計では分からない棟ごとの状態と空室の状況を記録します。
目的とエリアを伺ったうえで、調査項目と範囲をご提案します。

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長屋建は別に見る

共同住宅と混同されやすいのが長屋建です。全国で126万5,000戸あり、前回から7.6%減っています。

そして残っているものは状態が悪い傾向があります。京都市の資料では、放置型の腐朽・破損率が長屋建52%、一戸建28%、共同住宅11%。長屋建だけが突出しています

大阪市では5年間で1万4,600戸(31.9%)減り、残っているのは生野区6.5%、西成区5.8%と特定の区に集中しています。

賃貸用として扱うより、解体や建替えの対象として見るほうが実態に近い建て方です。

目的によって、扱いが変わる

立場 賃貸用の空き家の扱い 調査で指定するとよい条件
不動産会社(戸建て) 範囲から外す 戸建てに限定する
不動産会社(一棟) 対象になる 「古アパート」を棟単位で指定
賃貸管理会社 対象になる 「古アパート」+管理表示の記録
建設・リフォーム会社 大規模修繕の提案先 外壁・外階段の状態を記録
自治体 施策の対象は限定的 種類別の内訳を把握しておく

自治体の施策対象は放置型が中心

空家法にもとづく措置の対象は、管理が行われていない空き家です。募集中の賃貸物件は、通常この対象になりません

ただし実態調査で件数を集計する際、種類別の内訳を把握しておかなければ施策の設計を誤ります。空き家が多い地区でも、その大半が賃貸用であれば対策の必要性は変わります。

共同住宅が集積する地区と、戸建てが中心の地区では、取るべき対応が違うということです。

費用・期間・納品物

弊社の土地調査サービスの料金は、調査面積に応じた従量制です。基本料金は10,000㎡あたり1,000円(税別)、調査項目を追加する場合は1項目につき200円(税別)が加算されます。町丁目単位まで絞り込んだ範囲指定に対応しています。

項目 料金(税別)
基本料金 10,000㎡あたり 1,000円
追加調査(1項目) 200円
登記情報取得(所有者事項) 750円/件
DM印刷・封入・発送代行 180円/通

調査項目として「古アパート」を指定いただければ、築年数の経過した共同住宅を棟単位で調査・報告します。外壁や外階段の状態、募集看板や管理表示の有無も記録項目に含められます。

「空き家(戸建て)」と同時に指定すれば、両方を色分けした地図で納品します。同じ範囲を1回歩くため、別々に発注するより費用は抑えられます

納品形式は、ゼンリン地図への転記(調査項目ごとに色分け)、住所・地番リスト(PDF形式/追加料金)、Excel件数リスト(地区別・分類別集計)からお選びいただけます。

弊社は47都道府県をカバーする自社ネットワークを持ち、県境をまたぐ調査も同一の基準・フォーマットで実施できます。

依頼から納品までの流れ

目的と調査範囲のヒアリング
何のためのリストか(戸建ての仕入れ/一棟買取/管理受託/修繕提案)を確認したうえで、対象範囲と調査項目を決めます。面積に応じた見積りをご提示します。
調査候補の抽出と調査地図の作成
指定条件に該当する建物を選定し、調査員が使用する地図に落とし込みます。共同住宅を除外した設定にも対応します。
現地での実地調査
調査員が対象エリアを歩き、外観から一件ずつ状態を確認・記録します。共同住宅は棟単位で記録します。
地番と所有者の特定
調査結果をもとに対象の地番を割り出し、必要に応じて登記情報から所有者事項を取得します。法人所有の場合も対応します。
納品とアプローチ支援
地図・リスト・集計表の形で納品します。そのままDMの印刷・封入・発送までご依頼いただくこともできます。

賃貸用を扱うときの注意点

よくあるつまずき

  • 統計の戸数を棟数と考える/統計は室単位です。提案の単位は棟なので意味が違います
  • 「賃貸用=対象外」と一律に決める/一棟買取・管理受託・大規模修繕では対象になります
  • 募集期間の長さが分かると考える/統計は1か月も3年も同じ扱いです
  • 空室率を確定値として扱う/外観からの推測です。オーナーへの確認が必要です
  • 長屋建を共同住宅と同じに扱う/腐朽・破損の割合が大きく異なります

よくあるご質問

賃貸用の空き家を除いて調査できますか?

できます。調査項目を戸建てに限定していただければ、共同住宅を拾う量を大きく減らせます。ただし地域によっては母数も減るため、範囲の設定とあわせてご相談ください。

共同住宅を棟単位で調べられますか?

できます。「古アパート」を調査項目として指定いただければ、築年数の経過した共同住宅を棟単位で調査・報告します。統計では得られない単位の情報になります。

空室の多さは分かりますか?

外観から推測できる範囲で記録します。郵便受けの状態、カーテンの有無、駐車場の使用状況などが判断材料になります。ただし実数ではないため、正確な入居率はオーナーへの確認が必要です。

募集看板の有無も記録できますか?

ご相談ください。外観から確認できる範囲で、掲示物や看板の状況を記録項目に組み込めます。管理会社が入っているかどうかの手がかりになります。

長屋建も調査対象にできますか?

ご相談ください。全国で7.6%減と減少していますが、地域によっては一定数が残っています。残っているものは状態が悪い傾向があるため、記録の粒度もあわせてご相談ください。

まとめ

賃貸用の空き家は443万5,800戸で、空き家全体の約半分を占めます。これは市場の在庫であり、放置型とは性質が違います。

ただし統計は募集期間の長さを区別しません。募集して1か月の部屋も、3年間埋まっていない部屋も同じ扱いです。後者は実質的に放置型に近い状態ですが、数字の上では見分けられません。

地域差も大きい。神戸市では西区が賃貸用71.9%に対し、北区は放置型が50.8%。同じ市内でも空き家の中身がまったく違います。家賃水準も関係し、和歌山県のように貸す動機が働きにくい地域では放置型に流れやすくなります。

そして「賃貸用=対象外」と一律に決めるのは早計です。一棟買取、管理受託、大規模修繕。目的によっては、この層こそが対象になります。その場合、統計の室単位ではなく棟単位の情報が必要で、これは現地でしか取れません。

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